Steve Hackett / Wolflight

Steve Hackett / Wolflight

Steve Hackett / Wolflight

2016年4月2日

元ジェネシスのギタリスト、スティーヴ・ハケットの2015年3月30日発売のアルバム「Wolflight」が今日届きました。
買おう買おう思って1年近く経ってしまった・・・・・・・・

ここ数年ジェネシスのセルフカバー盤&ツアーが好調な中でのリリースということもあって、イギリスでは31位にランクイン、ツアーも盛り上がってるようです。
今度(2016年5月)の川崎クラブチッタでのライブも売り切れましたね。
60代後半なのに毎日のようにライブする体力が凄すぎ。衰えるヒマすらなさそう。

内容は
ジェネシスとソロでやってきたことの総括

旅に感化され中東の楽器を使ってみた

南国や太陽を表現したニュアンス?(新しい奥さんとの出会いが大きいのでしょう)
というもので、そこそこ長い曲も短い曲もありあっという間の56分、10曲です。

そもそもジェネシスとは?

という人は・・・・説明するには5時間くらい必要ですがとりあえずビートルズみたいな音でファイナルファンタジーみたいな曲をやっているこれを見てみてください。
長いですが、どこを見ても凄いです。
ハケットさんは’73年にすでにライトハンドを披露していて、他にも天才すぎるプレイが盛りだくさんです。

で、Wolflightはどうだったのかというと、良かったです。素晴らしいです。
今日だけで何回も聴いてしまいました。
ソロ・ジェネシス含めても一番バランスが良くて聴きやすいアルバムかも?
(ソロもジェネシスもいつも実験的で、安定感はないので)

おすすめポイント

  • 捨て曲がなさすぎる
  • 曲順の流れ最高
  • スティーヴ・ハケットの今までの作品から良いとこ取りしたような内容、しかも今回ならではの味がある
  • ポジティブだけど陰りはある
  • 今までになかった力強さ
  • フォックストロット、眩惑のブロードウェイのように、最後感動する
  • 現代っぽいクリアな音
  • 中東の楽器がかっこいい

万人におすすめでは全然ないですが、自分にとってはまさにそんなのが聴きたかったけど今までなかった、なアルバム。

どんな人向け?

初期ジェネシス、ハケットさんが好きな人はもちろん、ファンタジーっぽい世界、ギター、ブリティッシュロックに興味がある人も是非。

作品として悪いところはないのですが強いて言えば、ベースが全部クリス・スクワイアだったら格段にアルバムがきらめいたのでは、と思ってしまいます。
次作こそ、と思いましたがもう死んじゃったので叶わぬ願いですね。
ジェネシスのメンバーだったらと思わなくもないですが、今の勢いがあるハケットさんとロジャー・キングが演奏して、ツアーでも同じ音を、というところに価値があるし、マニアックになりすぎるか産業ロックになりすぎるかしそうだし、色々ありそうだし。

あとはストリングスがメロトロンの方が良かったと思いましたが、好みの問題ですね。きれいすぎる感じがどうにも。

注意点は、全体のサウンドがソフトなので、小さい音とか、高音が出ないスピーカーで聴くとつまらないです。
うるさすぎるぐらいの音量で聴いてみたら印象変わります。
どんな音で聴いてもかっこいいのが良いミックス・マスタリングだと思いますが、これも予算的に仕方なかったのかな?
大きい音で聴きやすいようにターゲットを絞ったマスタリングなのかも。

収録曲

1. Out Of The Body

ウルフが吠えて旅が始まります。ファイナルファンタジーとかロマンシングサガが好きな人は一発で気に入るのでは。
というかファイナルファンタジーの音楽作ってくれないかな。
ギターは早速ハケットさん節、さすがの一言。ライブで聴いたら高揚感ありそう。

2. Wolflight

ディジリドゥ(と読むのか)に続き歌が語りかけるように始まり、映画やミュージカルの冒頭っぽい。
ローマとか中国に挟まれながらも戦い自由を得ようとする古代の遊牧民たちを想像しながら聴くとワクワクします。
迫力とクリアさが大事なアルバムなので、YouTube音質だとちょっと微妙ですが公式の動画↓

3. Love Song To A Vampire

冒頭、ガットギターのソロが最高。
ジェネシスというよりキングクリムゾンを思わせる闇属性の壮大なメロディーが良いです。
ベースがクリス・スクワイアということで7:57からガリガリしてます。というか、このパート以外はシンセベースっぽいですね。
ドラムのタムまわしがちょっとかたいのが気になる〜

4. The Wheel’s Turning

遊園地っぽい曲。ハケットさんのこのノリは大好きです。
Please Don’t Touchの2曲目Carry On Up the Vicarageのイントロも、なぜか泣きそうになってしまいます。
サビはハケットさんが抜けてポップになってからのジェネシスっぽいですがそこはハケットさん、遊園地なりの暗黒パートがあります。
Dukeくらいの頃のジェネシスにハケットさんがいたらこんな音になってそう。

5. Corycian Fire

おなじみのおどろおどろしい曲。洞窟の歌だそうです。

ドゥドゥク(と読むのでいいのか)の音がかっこいいです。中東の笛?
4分くらいからの速弾き→中東セクション→聖歌隊の展開が唐突だけど自然、というとフォーカスみたいなの想像しそうですが違って、ポップさが勝ってます。テンション上がります。

6. Earthshine

ガットギターのソロ。うまい。
ジェネシスの頃からそうですが、ポップな曲の中に普通にギター1本のクラシカルなインストがあって楽しく聴かせられるというのが凄いです。
太陽に届きそう、的な気持ちで作ったそうで、これまでのダークでメランコリックなハケットさんのインストよりも力強さを感じます。

7. Loving Sea

曲間ほとんどなしでガットギターの柔らかい音色から一気にスティールギターの音色に変わり、パッと視界が開けたよう。
曲始まった時の爽快感が素晴らしい。
前の曲Earthshineが太陽に届きそうな様子で、このLoving Seaで本当に届いてしまった!みたいな物語を音で表してるのかもしれません。
新しい奥さんとメキシコで過ごした休日からインスパイアされたそうな。
60代後半でも恋の高揚感をこんな風に表せる才能が凄い。

8. Black Thunder

アメリカ南部の黒人奴隷についての曲。
2曲目のWolflightも、民族と民族の戦いについてですね。しかもマイノリティ側。
ずっとプログレのフィールドで作品を作り続けるハケットさんにとって、興味深いテーマなのかも。

Pink FloydのFrozen Japとアレンジがちょっと似てますが、あっちはマジョリティ側の曲ですね。

9. Dust And Dreams

アラビアの砂漠の曲。ここでも「旅」と「戦争」が関係してるよう。
ダークな時間が続き少し疲れます。しかし中だるみというわけではなく・・・・

10. Heart Song

曲名ついてますが完全に前のDust And Dreamsと繋がってますね。
ゆったりしたパートが始まり、優しげなボーカルが入ってきます。
そしてサビは、今まで陰りがあったメロディーに変わって、力強いメロディーに。
何度聴いてもここで自分の中に暖かい波みたいなものが押し寄せてきて、まさにHeart Song。
サビが終わって眩しい太陽に手を広げるかのようなギターソロ。

Supper’s ReadyやItにも似てるけどカオス感はなく、ポジティブな大団円感。
奥さんに捧げる曲ということで、今までのどの曲よりも力強い、分かりやすい言葉で語りかけるようにも叫ぶようにも聴こえるボーカルとギターが感動的です。
こんなありきたりな歌詞↓だからこそ、本当の気持ちを乗せて演奏すると感動的なものになるんですね。

Let me find a way to love you
Every single day
I want to stay
Let me find a way to hold you
Love will find a way

ジェネシスのFollow You Follow Meもそんな曲ですが、今回のハケットさんはもろプログレの曲調のままこういうことを表現したのが凄い。
何十年もプログレ路線だけでやってきたハケットさんだから作れる、歌える、弾ける曲だと思います。
ボーカルが弱いと言われがちな人ですが、この曲は本人のボーカルがベスト。

サビがあまり繰り返さないし、ギターソロも1分くらいで終わる物足りなさのせいで、アルバム全体を何度も聴き返してしまうという。
この曲だけ繰り返してもしょうがないんですね。
1曲目から長い旅のような流れがあって、ダークな曲もたくさん通過してこの曲というのが良くて。

↓このインタビュー記事を見ながら聴くと、より味わい深くなります。
なんとインタビューの日本語訳もしてくれています。
■Marunouchi Muzik Magazine – NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【STEVE HACKETT : WOLFLIGHT】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【STEVE HACKETT : WOLFLIGHT】

と、全曲の感想でしたが本当に曲順がよく考えられています。

ハケット節全開、勢いとポップさがあって展開めまぐるしい1〜5曲目

6. Earthshine ガットギターで一息(2〜3曲目の中でもガットギターの役割は大きい)

7. Loving Sea アコースティック続きで、こちらはリフレッシュできる曲

8〜9で重め暗めな展開

10. Heart Song アルバム中一番力強く明るい展開で終わる
(最後のパートが短いからまた聴きたくなる)

と。

テーマも旅を通して、人々の争い、恋愛、と統一されてます。
さらにその心の中にあるのは
「人が生きたり、自分たちの遺伝子を残して命を繋いでいくことの充実感、無意味さ」
「色々あるけどあなたに出会えて本当に良かった、今幸せだしこれからもこの幸せを続けていきたい」
的な感情なのかなと。
※異論は全面的に認めます

音もテーマもものすごい変化球だけどものすごいストレートで、大好きなアルバムになりそうです。


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